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あいとあい

2人の女子中学生の話「あいとあい」を書いています。

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第50話:あいとそつぎょうしき

第50話:あいとそつぎょうしき


「今日で、三年生は卒業か……」
 朝の光がカーテンの隙間から差し込む。
 まだ三月だけど、今朝の空気は少しだけ春の匂いがした。
 ぼんやりとしたまま、私は制服のブラウスのボタンを留めた。
 なんとも言えない気持ちが胸に広がっていた。
 自分が卒業するわけではないのに、なぜか緊張する。
 なぜなら、今日の卒業式には美佳がいる。
 卒業式なんて自分にはまだ関係ないはずなのに、なぜか胸の奥がそわそわして落ち着かない。
 きっと、亜依も同じ気持ちだろう。
 ……亜依は私より、もっと特別な思いで今日を迎えているのかな。
 考えたくないのに、頭の中で美佳の姿がちらつく。
 でも、私は——私の気持ちを大事にしよう。
 そう決めて、家を出た。

 学校の体育館に足を踏み入れると、すでに厳かな雰囲気が広がっていた。
 前の方は一人も誰も来ていない卒業生の席が整然と並び、在校生の私たちは後ろの方で静かに座る。
 隣に座る私の手をぎゅっと握りながら、亜依は神妙な顔をしている。
 私は、小さく息を飲んだ。
 ——亜依は、何を考えているんだろう。
 分かっているようで、分かっていない気がする。
「亜依ちゃん、緊張してるの?」
 そっと囁くと、亜依は小さく頷いた。
「……美佳先輩が卒業しちゃうんだよ。もう、学校で会えなくなるかもしれない」
「そうだね……」
 その言葉が胸に突き刺さる。
 美佳が卒業することが寂しいのは、亜依も一緒。
 でも——。
 それ以上、私は何も言えなくなった。

 美佳たち卒業生が入ってくると、卒業式は滞りなく刻々と進んだ。
 そして、卒業生代表として、美佳が壇上に立ち答辞を述べた。
 美佳の澄んだ声が体育館に響き渡った。
 私は、無意識に息を止め、美佳の言葉に聞き入った。
「——わたしたちは、三年間という時間をこの学校で過ごしてきました。楽しいことも、苦しいことも、仲間と一緒に乗り越えてきた日々。振り返ると、すべてが宝物です」
 静まり返る体育館。
 美佳の声が、どこまでもまっすぐに届く。
「この三年間で、わたしたちは多くのことを学びました。勉強だけじゃなく、人との関わり方や、自分の弱さと向き合うことも。その中で支えてくれたのは、先生方や、後輩のみんな、そして大切な仲間たちでした」
 言葉を一つ一つ噛みしめるように、美佳は続けた。
「卒業しても、私たちはここで過ごした時間を忘れません。そして、みなさんも、これからの時間を大切にしてください」
 気がつくと、亜依がそっと涙を拭っていた。
「亜依……?」
「……ううん、大丈夫」
 でも、その目には大粒の涙が浮かんでいた。
「わたし、美佳先輩のことが好きで良かった!」
 そう呟くように言った亜依の言葉が、私の胸を強く締めつけた。

 卒業式が終わり、在校生もゆっくりと体育館を出ていく。
 私は亜依の背中を見つめながら、一歩遅れてついていった。
 亜依の気持ちは、美佳に向かっている。
 私はそれを見ているだけだった。

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