「亜依ちゃんが、美佳のところに行っちゃう……」
部屋の天井をぼんやりと見つめながら、独り言を発した。
由佳と勉強した日は、多少なりとも気が紛れていた。
しかし、夜になると気持ちが落ち着かなく、どうしても亜依や美佳のことを考えてしまう。
もしかしたら亜依は、美佳にチョコを渡したのだろうか。そんなこと、考えたって意味がないのに……。
でも、気になってしまう。考えたくないのに、頭の中から離れないの。
「私じゃ、ダメなのかな……」
思わず口に出た言葉に、自分で落ち込んだ。
一体どうすればいいのかな。
私は、亜依の何になりたいんだろう。
友達じゃ、足りないかな。
『わからない』
ただ、胸の奥がずっと奥の方で痛んでいた。
学校に着いても同じようなことを考えてしまう。
亜依もいれば、美佳だっている。
これじゃ、家にいるのと変わらないな……。
せめて、亜依が美佳にバレンタインにチョコレートを渡しているのか。それだけでも、どうにか分かれば……。
ふと、亜依の方を見た。
亜依に聞いたら、答えてくれるのかな……。
でも、ハッキリ『美佳先輩に直接渡したよ』と言われたら、どうしよう……。
私は、立ち直れない気がした。
それとなく、由佳に聞いてみた。
「だから、それは分からないのね」
「そうだよね……」
「でも、大丈夫なのね。美佳姉は——」
由佳からその言葉を何回か聞いているが、不安にしかない。
実妹が言っているから、本当なんだろうけど……。
でも、今は美佳よりも亜依の気持ちの方が知りたかったな。
金曜日の放課後、いつものように亜依と帰った。
いつもと変わらない亜依の横顔を時折見つけながら、横を歩いた。
亜依がどんなことを考えているのか、それが簡単に分かればいいのにな……。そうすれば、こんなに苦労することはないのだろうな。
「藍ちゃん。はい、これ!」
「……え?」
亜依が、脇に抱えていたカバンから、思い出したように小さな袋を差し出してきた。
「これ。ちょっと早いけど、ホワイトデー」
「……え。私に?」
「そうだよ。バレンタインくれたでしょ?」
「あ、うん……」
驚きながらも、亜依から受け取ると、落とさないようにしっかりと袋を握りしめた。
「い、いいの、これ……!」
「藍ちゃん、甘いの好きだからね」
「……あ、ありがとう!」
まだまだ寒い三月だけど、亜依からのサプライズプレゼントで胸がぽかぽかと温かくなった。
亜依は、私のことをちゃんとわかってくれている。
家に帰ってから開けてみると、マドレーヌだった。
美佳のことでいろいろ心配したけれど、結局亜依は私のことも大切に思ってくれていた。
今は二番手かもしれないけど、それでも亜依のそばにいられるのなら、今はそれでもいい。
でも——。
「亜依からのお菓子、食べれないな……」
帰宅後、机の上に置いた袋を見つめながら、そう思った。