「これってデートかな……?」
久しぶりに亜依と二人で遊ぶ約束ができて、朝から落ち着かなかった。
着る服を迷って、何度も髪を梳かして、時間を気にしながら支度をした。
ただ亜依と一緒に遊ぶだけなのに、どうしてこんなに緊張しているんだろう。
でも、それくらい嬉しかったな。
待ち合わせの時間が近づいて、私は抑えきれない高鳴る気持ちのまま家を出た。
待ち合わせ場所に着くと、亜依はすでにベンチに座っていた。
「藍ちゃん、おはよう!」
「おはよう!」
亜依の笑顔を見た瞬間、心がふわっと軽くなる。
「じゃあ、行こうよ!」
二人で並んで、ショッピングモールへ向かった。
ショッピングモールに着くと、特に目的もないままモール内を歩いた。どちらから始めたかわからないくらい、なんとなく手を繋いだ。
目に入った雑貨屋のショーウィンドウに並ぶかわいい小物を眺めたり、書店に立ち寄って気になる本を手に取ったり。
ただ歩くだけなのに、亜依と一緒だと楽しくて仕方がなかった。
「ねえ、見て! これ、かわいくない?」
「ほんとだ! こういうの好きそうだよね、亜依ちゃん」
「やっぱり、気付いた?」
そんな亜依との何気ない会話が、私の心を満たしていく。
しばらく歩いていると、焼き立てのパンの香ばしい匂いが漂ってきた。
「あ、いい匂いだな……!」
「パン屋さんだよ。ちょっと入ってみようか?」
「亜依ちゃん、行こう!」
店内には、色とりどりのパンが並んでいた。
「どれにしようかな……」
「これ、おいしそうだよ?」
「ねえ! じゃあ、私こっちにする!」
それぞれ選んだパンを持って、レジへ向かう。
「……なんか、こういうのって、デートっぽいね」
不意に口をついて出た言葉に、自分でドキッとする。
「え? デート?」
「……え、あ。……な、なんでもない!」
慌ててごまかそうとすると、亜依は微笑を浮かべた。
「でも確かに、ちょっとデートっぽいかもよ?」
「そ、そうかな……?」
そんなやり取りをしながら、私たちはパンを手に店を出た。
近くの広場にあるベンチに座り、買ったパンを頬張る。
「おいしい!」
一緒にパンを食べながら、のんびり話す時間が心地よかった。
「ねえ。藍ちゃんは、もし好きな人とデートするなら、どんなデートがいい?」
「えっ……?」
突然の質問に、思わずパンを喉に詰まらせそうになる。
「うーん……。好きな人となら、どこでも楽しいと思う……かな?」
「藍ちゃんらしいね」
「じゃあ、亜依は?」
「私はね……美佳先輩とデートするなら、遊園地とか行きたいな!」
「……え?」
「遊園地へ一緒に行ったら、絶対に楽しいと思うよ!」
「そ、そっか……」
私は、ぎこちなく笑うしかなかった。
——やっぱり、亜依にとって特別なのは私ではなく美佳なんだ。
さっきまで『これってデートかな?』なんて浮かれていた自分が、急に悲しく思えてくる。
「藍ちゃん。大丈夫?」
「……う、ううん、なんでもないの!」
気づかれないように、無理に笑顔を作る。
夕方になると、空が茜色に染まり始めた。冬は日が落ちるのが早いな。
「夕日がキレイだよ」
「うん……」
並んでベンチに座りながら、ゆっくりと日が沈んでいくのを見つめる。
手を繋ぎながら大好きな亜依と夕日を見ていると、それこそデートぽく感じた。
でも、本当は亜依から美佳のことなんて聞きたくなかった。
亜依からすれば、今日のデートは私じゃなくて美佳の方がよかったのかな。
だけど、それでも私は——。
「ずっと、仲良くしようね!」
ふと、思わず呟いた。
「え?」
「ずっと……亜依ちゃんと、こうして一緒にいられたらいいなって」
「そうだよね!」
亜依は私の手をぎゅっと握った。
その温かさに、胸がいっぱいになる。
美佳にはなれないけど、私は、私のままで。
——それでも、私は亜依の隣にいたい。
夕日が、私たちの影を長く伸ばしていた。