「きれいな着物だな……」
街は二十歳の集いで祝う晴れ着姿の女性たちで華やいでいた。
図書館帰りの私たちは、少し賑やかな商店街を歩いていた。
ふと目の前に、艶やかな振袖をまとった女性たちの姿が現れた。
赤や水色、金糸で装飾された華やかな着物、彼女たちは嬉しそうに写真を撮り合っていた。
その光景に、私は思わず足を止めてしまった。
「本当……! 振袖って、やっぱり特別だよ」
亜依も同じように、その光景に目を奪われていた。
写真を撮り合う彼女たちの笑顔を見ていると、自分たちの未来がふと頭をよぎった。
あと数年もすれば、私もこんなふうに振袖を着る日が来るのかな……。
「いつか、あんな着物を着てみたいよ」
その光景に心を奪われる中、亜依が小さく笑みを浮かべながら言った。
「きっと似合うと思うよ、亜依ちゃん!」
私たちが成人する頃には、どんな生活をしているんだろう。
亜依と友達でいられるだろうか。それとも——。
そんな考えを巡らせていると、亜依が柔やかに言った。
「わたしが二十歳になったら、美佳先輩にも見てもらいたいよ」
亜依のその言葉に、私は思わず息を呑んだ。
「み……。み、み、美佳先輩に……?」
動揺を隠せないまま尋ねると、亜依は頷いた。
「きっと、素直に褒めてくれそうだし。わたし、先輩に言われたら、すごく嬉しいと思うんだよ」
亜依の目は、真っ直ぐな瞳をしていて本気さを感じた。
その言葉に、私の胸がざわつく。
私がどれだけ頑張っても、美佳ほど亜依に影響を与えられる存在にはなれないのかな……。
そう考えるだけで焦りと不安が、心の中で風船のように大きく膨らんでいった。
私は、それ以上のことは何も言えなくなった。
そして、私がそこに入る余地がないような気がして、胸の奥が痛くなった。
「……藍ちゃん?」
亜依が首を傾げて、私の顔を覗き込む。
「えっ。あ……、な、なんでもないよ!」
慌てて笑顔を作る私を見て、亜依は不思議そうにしながらも前を向いた。
どこかで亜依が振り向いてくれると信じてきたけれど、それだけでは足りないのかもしれないな。
美佳の存在を乗り越えられるのは、一体何なのだろう。
私にはまだ、その答えが見つからなかったな。
——由佳の作戦、本当にこれでいいのかな?
「ねえ、藍ちゃん。さっきの振袖の人たち、すごく楽しそうだったよ。ああいうふうに、大人になるのって素敵かも」
亜依の言葉に、私は少し考え込んだ。
自分がどんな大人になるかなんて、まだ想像もできないな。
でも、亜依の隣にいられる未来があるのなら、それだけでいいと思った。
「私たちも、あんなふうに笑える未来がいいな」
なんとかそう返すと、亜依は笑顔を返してくれた。
もっと亜依にとって特別な存在になれるように、私は変わらなきゃいけない。
それがどんな方法か、まだわからないけれど、きっと道はあるはずなの。
夕暮れの街並みを歩きながら、私はぼんやりと思い浮かべた。