「今年も亜依と一緒にいられるかな……」
お正月の朝、私はそんなことをぼんやりと考えながら、家族とおせち料理を囲んでいた。
母が作った紅白なますや黒豆、買ってきた伊達巻。それらが並ぶ食卓は賑やかで、家族の笑い声が絶えない。
けれども、私の心はどこか別のところにあった。
亜依と過ごした昨年のいろんな瞬間が、まるで映画のように頭の中をよぎった。
今年もあんなふうに一緒に笑って、一緒に悩んでいられるのかな……。そうありたいと、強く思いながら、私は心の中で小さく願った。
食卓の片付けを手伝い終えたころ、携帯から着信音がした。
画面を確認すると、『あけましておめでとう!』というメッセージが届いていた。送り主は由佳だった。メッセージは、いつものような長文だった。
「由佳らしいな」
自然と笑顔がこぼれる。
返信で『おめでとう! 今年もよろしくね』と打ち込むと、すぐに返事が返ってきた。
あっという間のやり取りに、心がほんのりと温かくなった。
由佳とのやりとりが落ちついて、数分。
また携帯が鳴って、今度は亜依からのメッセージが届いた。思わず頬が緩む。
亜依からの言葉は、なんだか特別な響きがある。
『おめでとう! 今年もよろしくね』
返信を送ると、すぐに亜依から「もちろん! 今年もいっぱいお話ししようよ!」という返事が返ってきた。
その言葉に、私は胸が少し熱くなるのを感じた。
そんなやり取りの中で、亜依から『一月三日、初詣行かない?』と誘われた。
私は『行きたい!』と即答した。
亜依と過ごせる時間が増えるのが、単純に嬉しかった。
迎えた一月三日。晴れ渡る冬空の下、私は亜依と初詣に出かけた。
待ち合わせ場所には、亜依が少し早めに到着していた。
「藍ちゃん、遅いよー」
笑いながら手を振る亜依。その姿を見て、私は小さく手を振り返す。
「今年も良い年になるといいよね」と亜依が笑う。
「うん、そうだね」と私も微笑み返す。
しかし、心の中には少しだけ不安があった。
亜依のお願い事は、きっと美佳のことだろうな……。
『美佳先輩と同じ高校に行けますように!』だったらまだいいけど、『美佳先輩と一緒になりたい!』だったらどうしよう……。
『日影亜依……?』それだけはダメ!
そんなことを考えていたら、悪い方向に行くだけな気がする。
不安は尽きるばかりで、そんな気がしてならなかった。
神社に到着すると、私たちは行列に並んだ。
境内には参拝客が溢れていて、新年の華やかな雰囲気が漂っていた。やがて順番が来て、私たちは賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らして手を合わせた。
『亜依と——』
心の中で一番のことを願った。これが私の本音だった。
「藍ちゃん、お願い事は何にしたの?」
参拝を終えると、亜依が聞いてきた。
「え、えっと……内緒!」
慌ててそう答えると、亜依は少し意地悪そうに笑った。
「じゃあ、私も内緒にしておこうかな」
そんな何気ない会話が、私にはとても幸せだった。
同時に、亜依の願いが美佳に関することだったとしても、いつか私自身の存在が亜依にとって特別になれたら……そう思わずにはいられなかった。
帰り道、亜依と肩を並べながら歩いた。冷たい風が吹き抜ける中でも、心はほんのりと暖かかった。
「今年も一緒に頑張ろうよ!」
「うん、頑張ろうね」
その言葉には、私の中の全ての思いが込められていた。
『亜依とずっと一緒にいられますように』
同じ高校に行けるくらいの学力を身につけること——それが、私の願い出もあり今後の目標でもあった。
これから先の二年間、私は亜依と一緒の高校に行けるように一層と努力しよう。そう誓いながら、私は亜依の笑顔を胸に刻んだ。