「今年もみんなと仲良くしよう」
冬休みが明けた三学期の初日。二週間ぶりにみんなと会える。今年も平穏にみんなと過ごしたい、そんな想いだった。
冷たい風が吹く中、私は学校の門を久々にくぐり抜けた。今年も亜依や由佳と一緒に過ごせるんだと思うと、少しだけ心が軽くなる。
廊下では新年の挨拶が飛び交い、クラスの中も正月気分がまだ抜けきらない雰囲気だったな。
教室に入ると、すでに亜依が席に座っていた。
「藍ちゃん、おはよう!」
いつも通りの亜依の明るい声。
三日の初詣以来だけれど、こうして学校で会うと少しだけ距離が縮まった気がする。
思わず嬉しくなり、亜依に抱きついた。
「亜依ちゃん、おはよう! 今年も仲良くしようね!」
私の言葉に、亜依は笑顔で頷いてくれた。その笑顔を見るだけで、少しだけ緊張が解けていく。
「由佳、おはよう!」
「おはようなのね」
相変わらず携帯を見ながらの返事で、素っ気ない感じの由佳に安心した。
そもそも、由佳とは昨日塾で会っている。その時、塾終わりにたくさん話したから、改めて話すこともないかも。
それでも由佳とは少しお話しした。いつも携帯に目を奪われているが、それでも聞いてくれているのはよく知っているの。
ホームルームが終わると、クラス全員で体育館に向かった。新年の始まりを告げる始業式が始まった。
校長先生の長い話が続く中、私は自然と生徒会の席に目を向けていた。
次に、現生徒会長の話が続く。美佳生徒会長が退任してから数ヶ月、私たちも新しい会長にだいぶ慣れてきた。
整然と並んだ生徒たちの中で、亜依と近くに並んだ私は、静かに現会長の挨拶を聞いていた。
会長の言葉には少しずつ自信が滲んでいて、初々しさの残る昨年の姿とは違って見えた。
亜依が小声で話しかけてきた。
「ねえ、ちょっと堂々としてきたよ」
「そうだね。前よりかは落ち着いてるかも」
そんな他愛のない会話を交わしながらも、私の心のどこかでは美佳のことが頭をよぎっていた。
亜依の中では、美佳の存在は今も大きいままなんだろうな……。
美佳の話題が出ると、どうしても私の心がざわついてしまう。
始業式が終わり、亜依と一緒に体育館を後にした。
教室に戻る廊下を歩いていると、前方から美佳が歩いてくるのが見えた。
美佳の姿を見つけた瞬間、亜依の歩みが少しだけ止まったのが分かった。
相変わらず凛とした雰囲気で、すれ違う生徒たちも振り返るほどの存在感を放っている。
私は、ふと亜依の表情を盗み見た。
亜依は何かを言いたそうにしていたけれど、結局声をかけることはなく、そのまま歩き続けた。
「……美佳先輩、卒業しちゃうんだよ」
亜依が、ぽつりと呟く。
「うん……。あと少しで卒業式だもんね」
私も何気なく答えたけれど、亜依の気持ちを考えると胸が苦しくなった。
——三年生の美佳が卒業してしまったら、亜依はどう思うんだろう。
私の知らない場所で、何かが変わってしまうんじゃないのか。
そんな不安が、頭を離れなかったな。
放課後、私は窓の外に目を移していた。
青空はどこまでも澄んでいて、冬の冷たい空気を思わせる。
亜依と美佳の関係、自分の進路……いろんなことが頭を駆け巡っていった。
いつものように、亜依と帰り道を歩く。
「ねえ、藍ちゃん。今年も一緒に頑張ろうよ!」
亜依がふいに言ったその言葉に、私は少し驚いた。
「うん、もちろん!」
私は慌てて答えたけれど、心の中では亜依がどんな気持ちで言ったのかを考えずにはいられなかった。
今年も亜依の隣にいられるだろうか——。
不安は尽きないけれど、私は前を向いて歩き続けるしかない。
一緒の高校に行けるように頑張るの。それが私の目標であり、今年の願いだった。