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あいとあい

2人の女子中学生の話「あいとあい」を書いています。

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第43話:あいとこいぶみ

第43話:あいとこいぶみ


「亜依が美佳先輩を奪っていったらどうしよう……」
 私は自室の机に向かいながら、ノートを開いていた。
 でも、文字を見ているだけで頭に入らない。
 シャーペンを握ったまま、亜依のあの言葉が頭をよぎる。
『わたしが二十歳になったら——』あの時の亜依の目は、本当に輝いていた。
 亜依を見ていると、美佳がどれだけ特別な存在なのかが痛いほど伝わってくる。
 本当に亜依が美佳に振り向いてほしいと思っているのなら、私には何もできないの。
 その考えが頭を支配し、机に突っ伏した。
「もし、亜依が美佳先輩のもとに行ってしまったら……」
 心の中で呟くと、胸が締め付けられるようだった。

 翌日の朝。教室に着くと、由佳が紙袋を抱えて席に座っていた。
「由佳、おはよう」
 いつものように声をかけると、由佳は少しだけ疲れた表情で返してきた。
「それ……? 何が入ってるの?」
 私は、その紙袋が気になって聞いた。
 由佳は曖昧に笑いながら、紙袋をロッカーに押し込んだ。
「秘密なのね」
 その一言で会話が終わってしまい、少しだけモヤモヤしながら席に着いた。

 ホームルームも終わった放課後。クラスメイトもいなくなり、徐々に静かになっていった。
 職員室に行っている亜依を待つために、私は教室で待っていることにした。
 すると、由佳は紙袋を机に出し、中身を整理し始めた。
 私は気になって席を立ち、由佳のもとへ向かった。
 ちらりと覗くと、それは何通もの手紙だった。
「それ、全部手紙?」
 由佳は少し驚いたように私を見た後、小さく笑った。
「美佳姉に送られたラブレター」
「えっ……。み、美佳先輩の?」
 あまりの意外さに驚きの声を上げてしまう。
「美佳姉って、モテるのね。今は、受験で忙しいから、代わりに整理してるのね」
 由佳は、手紙を一通ずつ開けては中身を確認していく。
「すごい量だね……。でも、勝手に見ていいの?」
「ほとんど捨てるからいいのね。だって、これとか見て」
 由佳は封を開けた一通の手紙を見せてくれた。そこには、大げさな愛の言葉がびっしりと書かれていた。
「……『君のためなら空も飛べる』って……。む、無理かな……?」
「一か八かとはいえ、随分と思い切っているのね」
 この人は、京都のお寺から飛ぶのかな……。あっ、あれは飛んでなかった。
「これなんて、『君を想うだけで一日が輝く』なのね」
「……『一日が輝く』って、な、……なん、……なんか、す、すごい」
「ち、ちびあいちゃん……。わ、笑ったら……、か、……かわいそうなのね!」
「ゆ……、由佳だって……!」
 私たちは思わず吹き出しそうになり、必死で口元を押さえた。
 一呼吸置いた由佳は、私たちにとって危険な爆発物を破棄する袋の方に入れた。
「……こういうのが多いんだよね。本当に笑っちゃうのね」
 由佳も苦笑いしながら、手紙を次々と仕分けしていく。
 その作業を見ていると、ふと疑問が湧いた。
「お断りの返事はしないの?」
「最初の頃はしていたみたいだけどね……。みんな諦めきれずに何度も来るから、最近は無視しているみたいね」
「美佳先輩は、お手紙見なくていいの? も、もしかしたら、かっこいい男子からあるかもしれないのに?」
 由佳は手を止め、私の顔を真剣に見つめた。
「でも、美佳姉は——」
 由佳から思いがけない言葉を聞いて、時間が流れるのが遅くなったように感じた。
「そっ……そうなんだ!」
 由佳の話を聞いて、私は胸の奥が少し軽くなった気がした。

 放課後の教室で、私は小さな安心感を胸に抱いた。
 でも同時に、亜依にとってもっと特別な存在になれるように頑張ろうと思った。
 職員室から戻ってきた亜依に身を寄せて、帰路についた。

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