「今年、みんなと過ごせるのもわずか……」
教室の窓から見える冬の空を眺めながら、私はそっと呟いた。
今年も残り少なくなり、時間が流れる速さを改めて実感した。
少し寂しい気持ちになりながらも、この日々を大切にしたいな。
期末テストが終わった数日後の昼休み。
テストの結果を見ていた私は、同じく成績表を手にした早智と翔子と混ざっていた。
「うーん、59位だった」早智が少し恥ずかしそうに笑う。
「58位。早智には勝ったけどね!」翔子は得意げに胸を張る。
「ちびあいちゃんは、どうだった?」
「私は……55位だった」
そう言うと、二人が驚いた顔で私を見た。
「えっ、ちびあいちゃんがそんなに上がるなんて! すごいじゃん!」
翔子が目を丸くして言う。
「いろいろ頑張っているの」
視線をそらしながら、由佳に教わった勉強アプリのことを思い浮かべた。
あのアプリのおかげで、苦手だった科目が少しずつ分かるようになった。
心の中で由佳に感謝した。そして、自分でも驚くほどの順位上昇に少し誇らしい気持ちになっていた。
数日経過した、クリスマスイブの日。
終業式が午前中で終わった放課後。私は由佳と早智と三人で教室の端で何気ない会話をしていた。
冬休みが始まるという解放感から、自然と笑顔があふれる。
そんな中、亜依と翔子が二人そろってやってきた。
「今日の午後って、特別な予定とかある?」翔子が聞いてきた。
「私は、特にないかな……。家でのんびり過ごすくらい」
由佳も早智もそんな感じだった。
「ねえ、午後みんなで出かけない?」
亜依が声を弾ませながら提案する。
「いいね! 行こう行こう!」
翔子もすぐに乗り気になり、誘いに応じることにした。
約束通りの午後、公園に向かった。
私は、アイボリーのパーカーワンピースに、お気に入りのマフラーをして集合場所に着いた。
クリスマスが明日に迫っているだけあって、街は飾り付けが素敵でそれだけでも楽しくなりそう。
集合場所の公園に行くと、亜依と翔子が既に待っていた。
「藍ちゃんの服、かわいい!」
真っ先に亜依が褒めてもらい、嬉しくてしょうがなかった。
「お気に入りの服なの」
後から来た早智にも褒めてもらえたが、やっぱり亜依に言われた方が一番嬉しかった。
遅れて由佳が来たが、その服に視線が集まる。
「お姉ちゃんから、もらった服なの」
それを聞くと、「かわいいー」や「いいな」と、みんなこぞって発した。
「つまり、それってお姉さんが着ていた服なの?」
「そうだよ。サイズが合わなくなるまで着ていたのね」
「いいなー、そのスカート。欲しいなー」
「絶対に、あげないから!」
嬉しそうな由佳に視線が集まり、亜依まで興味を示していた。
でも、由佳の言う『お姉さん』って——。
すると亜依が私に近寄って小声で話してきた。
「あれ、美佳先輩の服だよね。絶対自慢だよ……」
亜依の目には羨望が込められているように見えた。
街中のショッピングモールで回りながら遊ぶことにした。
ウインドウショッピングをしながら、本屋に寄った。
みんな参考書などを見ているところを見ると、隙を見てそっと由佳に耳打ちした。
「由佳の今日の服って、本当に美佳先輩のお下がりなの?」
すると由佳は小さく首を横に振った。
「今日のは……千佳姉のお下がり。美佳姉にあげたみたいだけど、一度も着なかったのね」
その言葉に安心した私は、微笑みながら亜依には伝えず胸にしまった。
「やっぱり、そうなんだね」
でも……亜依は気付かないのかな。
参考書を見るふりをしながら、目が合ったときに亜依が笑ってくれるのが嬉しかった。
寒空の下、帰り道では自然と亜依と二人になった。
早智と翔子、由佳が少し先を歩いているのを見計らい、私はそっと亜依の手に触れた。
冷たい空気の中でも、亜依の手は少し温かかった。
亜依は驚いた顔をしたけれど、すぐに笑顔を浮かべてくれた。
「クリスマス、一緒に過ごせて嬉しいな」
私が小さな声でそう言うと、「わたしも」と呟くように返してくれた。
その瞬間、寒ささえも心地よく感じた。
今年もあと少し。この時間を、大切にしていきたい——そう思ったな。