『亜依と一緒にいられる』
それだけで、美佳のことで疲弊した私の心は満たされる気がしたかな。
秋の少し冷えた風が、いつもの通学路を吹き抜ける朝。でも今日は、亜依と一緒に高校の文化祭に行く日なの。
いつもの帰り道で文化祭の話をするたびに胸が高鳴って、毎日が少しずつ輝きを増していた気がするな。
いつもより少しだけおしゃれな格好をしてみた。シンプルだけど清潔感のある白いブラウスに、淡いブルーのスカート。亜依の視線に気づいて、小さく照れたように微笑んだ。
「亜依ちゃん、そんなに見ないで……!」
「ご、ごめんね! でも、すごく似合ってるよ!」
お互いに少し照れながらも、自然と歩みを揃えながら目的地へ向かった。
高校の正門にはたくさんの装飾が施されていて、通りを歩く人々の楽しげな雰囲気。それらは、私たちの気持ちも明るくしてくれた。
中に入ると、色とりどりのポスターや生徒たちの楽しそうな笑い声が飛び交い、活気あふれる世界が広がっていた。
学校の門をくぐり抜けると、文化祭ならではの賑やかな雰囲気を包んでいた。
高校生たちは、楽しそうにしていて、それぞれのブースや出店が笑顔で溢れていた。
廊下の壁には色鮮やかなポスターが貼られ、教室のドアにはホラーハウスやカフェといった手作りの看板が飾られている。
「あの教室、すごく素敵だよ」
目を輝かせながら亜依がそう言うのを見て、私も同じくらい嬉しくなった。
カフェで美味しそうなカップケーキを買って、二人で並んで食べた。ホラーハウスでは手を取り合って驚き、イベントを見つけるたびに目を合わせては笑い合った。
「すごいよ、藍ちゃん!」
亜依が目をキラキラさせながら、あたりを見渡した。
「こんなに賑やかだなんて思ってなかったよ」
中庭の楠の下で休んでいると、二人の女子高校生が通り過ぎていった。制服からして、ここの生徒かな。
「今日は、甘いものがたくさん食べられて幸せ……!」
「そろそろ、持ち場に戻らないと部長に怒られますよ?」
「いいの、いいの。ヨシトくんが、どうにかしてくれるから!」
「もう……」
「ねえ! あっちのクレープ屋に行かない?」
「……どうなっても知らないですよ?」
それを聞いていた亜依は、私の方を向いた。
「わたしたちも、あっちに行ってみない?」
亜依は私の手を引き、たくさんの模擬店が並ぶ通りへと向かった。
「わぁー、どれもいい匂いがするよ」
二人でクレープを買い、教室のすみっこで食べることにした。
焼きたてのクレープの熱さと、それを一緒に食べる亜依の笑顔を見ていると、なぜだかほっとしてしまう。
「藍ちゃん。なんだか今日は嬉しそうにしてるよ?」
亜依が不思議そうに私を見つめた。
「えっ……。そうかな?」
私は慌てて視線をそらしたけれど、きっと顔が赤くなっていただろうな。
「うん。楽しそうで、なんだか私も嬉しくなるよ」
亜依がそう言うと、私たちは笑い合った。
その後、いくつかの展示などを見て回った。
文化祭の活気に包まれて過ごす時間が、いつもよりも特別なものに感じられた。
「高校って、こんなに楽しいんだね……」
亜依がぼそっと呟いた。少し遠くを見るようなその表情は、どこか寂しげで、普段の亜依とは違う気がして、私は心配になった。
「あいじょも、こんな雰囲気なんだろうと思って……」
「亜依ちゃん、どうしたの……?」
私が尋ねると、少し俯きながら視線を落とした。
「……わたし、高校に入れるのかなって、不安になってきちゃって」
亜依の声には、珍しく弱さが滲んでいた。
「どういうことなの?」
亜依は周りの楽しげな高校生たちを見渡しながら、小さく肩をすくめた。
「高校生って、こうやって楽しそうにしてるけど……わたし、高校生になってついていけるのか」
亜依の不安そうな顔を見て、胸が締め付けられるようだった。いつも明るく前向きな亜依が、こんなふうに悩んでいるなんて……。
私は、言葉が出なくなった。どうしてあげれば、亜依の不安を少しでも軽くしてあげられるだろう。そんなことを考えていると、ふいに亜依が私の方を見つめて微笑んだ。
あいじょの文化祭があるのは来年。今年に行けるのであれば、亜依の不安も拭えるのかな。
「でも、藍ちゃんがいるから、ちょっとだけ安心するよ。いつも藍ちゃんと一緒に頑張れる気がするから」
その言葉に、私の胸の中で温かいものが広がっていった。
亜依が少しでも安心できるなら、私は何だってしてあげたい。何より、亜依のそばで支えられるのなら、それだけで私は十分だった。
「私は、ずっと亜依の味方だよ」
そっと私は亜依に近づき、亜依の柔らかい部分に触れた。
亜依が少し驚いたような顔をして、それから照れくさそうに笑った。