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あいとあい

2人の女子中学生の話「あいとあい」を書いています。

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第28話:あいとにんき

第28話:あいとにんき


「美佳生徒会長じゃなくなって、残念だな……」
 その日、体育館では新体制の生徒会が発表された。全校生徒が集まり、先生や生徒たちの前で新しい生徒会役員が一人一人紹介されていく。壇上に立つ新しい生徒会長は、明るくて元気にスピーチを堂々としていた。
 しかし、私の周りでは、美佳の生徒会長退任に寂しさを感じる声が聞こえていた。
「美佳先輩、やっぱりすごかったよ……」
 亜依が、ぼそっとつぶやいた。隣でじっと前を見つめている亜依の横顔は、どこか寂しそうだった。
 生徒会長としての美佳は多くの人から愛されていて、その存在感は絶大だったからな。
 特に、亜依にとっては特別な存在だったのかもしれない。
 亜依の表情は、どうにも晴れない様子だった。
 今までずっと尊敬し、憧れていた美佳が生徒会長の座を降りることに、何か大きな喪失感を感じているのかもしれないのかな。
 私も美佳先輩が生徒会からいなくなるのは少し寂しいけど、亜依の反応はそれ以上に深刻だった。
 体育館を出るときも、亜依はいつもと違って無口で、何かを考え込んでいる様子だった。

 帰り道、私はいつものように亜依と一緒に歩いていた。
 けど、亜依の口数は依然と少なく、私はどうしたらいいのか分からずにただ亜依の隣を歩いていた。
 街路樹の影が道に長く伸びていて、夕暮れの空は美しく染まっていたのに、私の心は晴れなかったな。
「美佳先輩……すごく素敵だったよ……」
 亜依が突然そう言った。夕日を浴びながら、静かな声で、ぽつりと。
 私は、亜依の言葉に同意した。美佳の生徒会長は、確かに素敵だったかな。
 だけど、亜依の口ぶりは普通の憧れとは違うように感じた。
「美佳先輩みたいな人、他にいないよ……」
 亜依が美佳を尊敬しているのはずっと感じていたけれど、ここまで強い気持ちを抱いていたなんて……。
「わたし……ずっと、美佳先輩に憧れてた。生徒会長としての姿もすごくかっこよかったし、何より優しくて……」
 亜依の言葉は、だんだんと熱を帯びていった。
 私はその横顔を見つめながら、何かが胸の奥でざわつき始めるのを感じた。美佳先輩に対する憧れや尊敬じゃない、その言葉の裏にはもっと深い感情が隠されているようだった。
「……美佳先輩、すごく好きだよ。付き合いたいっていうか、一緒になりたいっていうか、ほんとに……四月くらいからずっと」
 その告白に、私の心臓が一瞬止まったような気がした。目の前で語られる亜依の想いは、私が想像していた以上に強く、深いものだった。
 それが何を意味するのか、ようやく私は理解した。
 そして、自分の中で何かが壊れる音がした。これまでずっと亜依と一緒に過ごしてきた。
 私は亜依と一緒にいることが、幸せで大好きだった。
 だからこそ、亜依が自分に寄せる想いは、親友以上のものとしてのものだと思っていた。
 でも、目の前の亜依が語るのは、私ではなく美佳先輩に向けられた特別な感情だった。
 私の心の中にぽっかりと空いた穴が、一気に広がっていった。
 これまで亜依との友情を何より大切にしてきたけれど、亜依の気持ちが自分の知らないところで別の人に向けられていたことに、どうしようもないショックを受けていた。
 亜依は私にとって特別な存在だった。何度も一緒に笑い合い、悩みを共有し、支え合ってきた。だからこそ、私は亜依と一緒にいることに多くの幸せを感じていた。
 それなのに……その亜依の心の中には、美佳先輩という大きな存在があった。
 亜依は安心したかのように微笑んだ。その笑顔を見て、私も少しだけ心が軽くなった気がしたけれど、それでも心の奥底には、消えない痛みが残っていた。
 それは、確信を持って言えること。

『亜依が一番好きなのは、美佳先輩』

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