『やっぱり日影生徒会長は素敵だな……』
二学期の始業式。体育館に並ぶ生徒たちの間で、思わず感心した。
夏休みが終わり、久しぶりに学校へ戻った。つまらない校長の話よりも、生徒会長が壇上で話をする姿がひときわ輝いて見えた。その姿に見とれながら、憧れを抱いていた生徒は多いのかな。
生徒会長の言葉は力強く、そして優しさに満ちていた。その言葉を聞くたびに、私は自分ももっと頑張ろうと思える。
「さすが、生徒会長……!」
始業式が終わり、教室に戻るために廊下を歩く中、亜依は生徒会長の話を続けていた。
「本当に素敵だよ。生徒会の仕事も完璧だし、成績もトップクラスだし、美人さんだし……」
「わたし、結婚するなら、ああいう人がいい……!」
私はドキッとした。これって……そう、例え話だよね。もし自分が言われるのであれば、こうなりたい。……とか、そういうことかな。
「そ、そうだね……。私もそう思うかな」
「でしょ! 話しでいるだけでも知的に感じるのよ。もう、素敵!」
どうしてだろう。亜依がこんなに嬉しそうに話しているのに、乗る気になれないのは。
確かに生徒会長は素敵だけど、どこか寂しい気持ちになってしまった。
この話、妹が聞いていたらどう思うのかな……。
翌日には授業が始まり、日常が戻ってきた。クラスメートとの会話や、先生の授業に耳を傾ける日々が再び始まる。
その中で、自分が少し成長したことを感じていた。夏季講習を通じて、自分なりに勉強に取り組んできた成果が実を結んでいるように思えた。
放課後、定例会議に行っている亜依を待つために教室に残った。由佳もやっぱり同じように待っていたので、隣に座った。
「今日の本もお姉さんからの本?」
「そうだね。これとそれは、お小遣い出し合って買ったのね」
「いいな、仲の良い姉妹は」
私はそういう姉妹に憧れるな……。
由佳を見て、この間に亜依が言っていたことを思い出してしまった。
「ちょっと喉が渇いたのね」
由佳は、水筒に手を伸ばした。
「ねえ、由佳。女の子が女の子と結婚したいって、やっぱり変かな……」
すると、由佳は勢いよく吹いてしまった。
「……じょ、冗談だよね……。それ……」
「ご、ごめんね、由佳。私もそういうことって本気じゃないと思うの」
「わたし、家族にそういうことを言われたら嫌だけどね」
由佳は、そう放つと水筒の飲み物を改めて飲んだ。
そうだよね、由佳にこの話をするのはやっぱり辞めておこうかな……。
なんだか廊下の方が騒がしくなった。多分終わったのかな。
「私、そろそろ帰るね。由佳、さっきは変なこと言ってごめんね」
「別に良いのね。気にしなくて」
由佳を教室に残して、亜依が出てきただろう会議室の方へ向かった。
一緒に亜依と楽しく帰ったが、なんで亜依があんなことを言ったのが分からなくなった。
由佳にも聞けないし……。生徒会長のことも……。そういえば——
『結局、あの二人はトイレで何をしていたのだろう』
亜依と別れて一人自宅に帰る間、ふと夏休みの夏季講習で目撃したことを思い出した。
聞いても話してくれないだろうから、忘れることにした。