「模擬テストか……。自信ないな……」
夏の日差しが降り注ぐ中、勉強道具などを入れたリュックと共に重くのしかかる。
学校のテストも十分にストレスフルだというのに、塾でも模擬テストが待ち受けている。
学習塾に着いても、冷房の効いた教室で深いため息をついた。
私は心の中で不安を感じながらも、頑張るしかないと思った。
由佳は相変わらず携帯を見つめている。
「由佳は、やっぱりテスト自信ある?」
「そんなことない。自信がないから勉強するのね」
意外だな……。由佳ほどの学力があっても自信ってつかないんだな。
「……に負けるのが怖いのね」
「え……なに? 何か言った?」
ボソッと由佳が呟いたが、前半の言葉が聞き取れなかった。
「何でもないのね。それより、ちびあいちゃんはドーナツ好き?」
「好き! 毎日でも食べたい」
「千佳姉が友達から割引券を少し貰ったのがあるのね。テストが終わったら一緒に行かない?」
「行く! 由佳様、お供させて下さい!」
「奢らないけどね」
「ケチ!」
「割引券をあげるだけ、ありがたく思うのね!」
「冗談だって……。由佳ちゃん、怒らないで……」
由佳の肩を揉みながら、機嫌を伺った。
「あっ……。あ、あっ……」
由佳って触られるのが弱点なのか、それとも気持ちいいのか、これで機嫌直すことが多い。
でも、ドーナツがあるならテストも頑張れるかな。
模擬テストの時間が近づき、教室全体が静寂に包まれた。緊張が走る中、一度深呼吸をしてから、問題用紙をめくった。
『あれ? これって、こないだ勉強したところだ!』
今まで解けなかった問題が、思うように解けていった。驚きと共に、シャーペンを走らせ始めた。
最初の一問、次の一問と、スラスラと解いていく。まるで頭の中のパズルがピースごとに填まっていくかのように、問題が解けていく。
テストが終わると、自分でも驚くほどの充実感を得た。予想以上に問題が解けたかな。
数日後には結果が返ってきて、驚きの点数だった。
「え……。私、平均点を超えてる!」
私は驚きと嬉しさで、思わず驚いた。こんなにうまくいったことはなかっただけに、自分の成長を実感した。
「由佳! 私、こんなにできるようになったんだ!」
喜びのあまり、由佳の教室まで行き、思いっきり由佳に抱きついた。
「ぐ、ぐるじい……」
由佳の息が詰まったような苦しい声が聞こえて、さすがに離した。
「ご、ごめん……。嬉しくって、つい……」
「ねっ! 夏季講習にきてよかったでしょ?」
「そうだね」
確かに由佳に乗せられてきたけど、こんなに良い結果になって嬉しかった。
由佳と塾を出ると涼しい風が顔に当たり、夏の暑さが少し和らいだ夕方の街を歩く。
「——でもね、毎日食べても太らないんだって」
「いいなー、その千佳さんのお友達。大好きなドーナツ食べても太らないなんて」
「千佳姉とは違う学校だけど、運動部なんだって」
「動くから消費するのかな」
「でも、同じ部活の女の子が一緒に付き合ってくれるけど、好物を理由にやたらドーナツを食べさせようとするんだってね。……でも、本当は太らせようとしてるみたいだね」
「えー! そうなの……」
「お腹いっぱいになったフリして、残ったドーナツ数個丸々上げるんだってね。カロリーが高いものを中心に笑顔で渡すんだってね」
「それ、怖い……」
「恋敵同士みたいでね、好きな人から引き離したいみたいね」
「そこまでして引き離したいなんて、よっぽどその人が好きなのかな……」
チェーン店のドーナッツ屋に入り、ドーナツを注文した。
甘いドーナツを口に運びながら、今日の出来栄えに喜びを噛みしめた。
初めてかもしれない、自分に少し自信が持てたことに。