「私の夏休みはないかもしれない……」
そんな不安を抱きながら、終業式の日を迎えた。
学校の校庭には青空が広がり、蝉の鳴き声が響いていた。生徒たちの間には夏休みが来る喜びと期待が満ちていたが、私の心はどこか重かった。
午前中に終業式が終わると、担任の先生から大量の宿題を配布した。数学の問題集、英語の課題、読書感想文など、どれも時間のかかるものばかりだった。その重さにため息をついた。
「こんなに宿題があるなんて……」
私の夏休みは、宿題に占拠させられそうだった。その上、亜依との勉強の約束。そして由佳からも。到底、私の自由な時間は少なそう。
夏休みってもっと楽しいものだと思っていたが、中学生となるとそうはいかないのかな。
亜依や由佳も言っていた。『勉強するための夏休みだ』と。
私が気落ちしていると、後ろから勢いよく亜依が近づき抱きついてきた。
「ねえ。藍ちゃん、午後予定ある?」
突然だったこともあり、亜依にバックハグされてドキドキした。
「特にないかな」
「じゃあ、わたしと付き合って!」
亜依の言葉に、私は更に鼓動の高いを感じた。
お昼ご飯を食べてから、亜依と待ち合わせをした。
亜依からのお話。せっかくだから、おしゃれして紺のTシャツに白いスカートで決めた。
「待った?」
「ううん、私もさっき来たところ」
「ごめんね、急にあんなこと言って……」
「いいの。亜依ちゃんから言ってもらえて嬉しかったな」
まさか、亜依から付き合ってほしいと言われて嬉しかった。
亜依と歩調を合わせながら、並んで歩くだけでも心が弾んだ。
ショッピングモールに到着すると、たくさんの人々で賑わっていた。学校も終わり、同年代の人たちも多く見られた。
「欲しい本、買えるといいね」
亜依には欲しい本があり、一緒に行くことになった。場所は前回と違うが、あの時は由佳たちがいた。けど、今日は亜依と二人っきりで出かけられるのが、即答の理由だった。
本屋に入ると、参考書エリアを探しまわった。比較的すぐに見つけることができた。
「せっかくモールに来たから、見て回ろうよ」
すぐに買えた本を抱えた亜依が言ってくれて、私はうなずいた。
二人はショッピングモール内を歩き回り、いろいろな店を見て回った。服屋や雑貨屋、カフェなど、どこも興味深いものばかりだった。
特にかわいいアクセサリーが並ぶ店には、気になった。
「これ、かわいいよ」
亜依が嬉しそうにブレスレットを見つめた。
「うん、すごくかわいい」
私も満足そうに微笑んだ。
店内を見て回ると、ふと指輪のコーナーが気になった。
『いつか、亜依も私も誰かとお揃いの指輪をつけることになるのかな……』
手に取ったものの、それは期待と不安を感じた。
私はそっと指輪を置いて、亜依と店を後にした。
「更に人が増えたかな」
夕方に近づくにつれて増える人だかりに、私は少し不安そうに呟いた。
すると亜依は私の手をしっかりと握りしめた。
「大丈夫だよ、藍ちゃん。私がいるから」
亜依の温かい手の感触に、心が落ち着いた。亜依と手を繋ぐことができて、内心嬉しかった。
それはお揃いのアクセサリーをつけるよりも、価値があるように思えた。
「今日は本当に楽しかったな……」
「藍ちゃんと一緒に過ごせて、すごく楽しかったよ」
ショッピングモールを出る頃には、日が傾き始めていた。私たちは手を繋いで、家路に向かって歩いた。帰り道も話が弾み、楽しい時間が続いた。
「でも、夏休みは勉強なんて言っていたのに、今日は遊べて楽しかったな」
「だって、夏休みは『明日』からだよ。今日くらい遊ばなきゃ」
「そ、そういうことなの……?」
「だって、宿題だっていっぱいあるよ。いろいろ片付けないと」
亜依と繋いだ手は温もりを感じたが、亜依の言葉に現実に引き戻され心が冷え切った。
やっぱり私の夏休みはないのかな……。