「三年間じゃ短い、六年間は一緒にいたい」
そう思うと胸が熱い。中学三年間という限られた時間の中で、亜依と過ごす時間がどれだけ貴重なのか痛感していた。
もっと一緒にいたい、もっと亜依と同じ時間を共有したいと願う気持ちは日に日に強くなるばかりだった。
放課後、亜依が職員室に行っている間、教室で待つことにした。数名教室に残っていたが、最後に残ったのは私と由佳だけになった。
読書中の由佳の邪魔をしないように、そばに座って亜依を待った。
「今日はBLないよ」
「う、うん……。あれは、もういいよ……」
あれはちょっと刺激が強かったかな。
「でも、お姉さんっていろいろな本読むんだね。あいじょって大変なんでしょ?」
「そうでもないみたいだけどね」
相変わらず、由佳は本を凝視して私の方はチラ見する程度。
「やっぱり、由佳もあいじょに行くの?」
「千佳姉と同じ高校に行きたいね。年齢が離れているから一緒には行けないけど」
由佳の成績だったら、狙える位置にはいるから姉妹揃って行くことは可能かな。
「世間的には厳しいって言われるけど、千佳姉が言うには、あいじょは思っているよりユルいからね」
「そうなの?」
「お化粧やネイル、カラーリングしても先生からは全然怒られない。それも生活態度と成績次第だけどね」
そういえば、黒髪のあいじょの生徒は多いがバッチリメイクしている子はよく見る。
「その代わり……」由佳は、栞紐を挟み込んでから本を勢いよく閉じた。
「先輩後輩の上下関係がかなり厳しい。同じ学年同士でも、どこのグループに入っているかで、3年間の高校生活が決まってくるね」
あいじょが厳しい厳しいと聞くけど、そういうことだと理解した。
「上下関係の厳しい高校生活を乗り切るためには、どのグループに属しているかがすごく重要」
お姉さんからいろいろ聞いているのかな。由佳はあいじょでの乗り切り方を説明した。
「わたし、かわいくてリーダーシップのある亜依ちゃんみたいな子が来てくれたらすごい助かる」
確かに、亜依と一緒に居られている私は幸せ者かもしれないな。
「私も頑張って行けるなら、行ってみたいな……」
「ところで、ちびあいちゃんは中間テスト何位だったの?」
「え……。ちゅ、中間テスト……」
また嘘をついたら、今度こそ『嘘つき』呼ばわりされる。
「そ、その……」
なんとか言わずにごまかそうと思った。でも、本か携帯を見ている時と違って、由佳は私の目を見て話してくるから威圧感がすごい。
「そ、その……。きゅ、きゅう……じゅう位……」
「90位って下半分じゃない! あいじょどころか普通の進学校も厳しいよ!」
大声の由佳はイスから立ち上がった。だからあの時2人に本当のことを言いたくなかったんだ!
「その……。亜依ちゃんやみんなには言わないでね……」
「言わないよ……」
呆れた由佳は倒してしまったイスを戻し、座り直した。
「真剣に行きたいなら、次の期末テストを頑張らないと三年生までに追いつけないよ……」
「そ、そうだよね……。なんかごめんね……」
「推薦で行けるなら、話は別だけどね」
皮肉にも見える和やかな笑顔の由佳はそう言うが、私の成績などでは到底無理な話だった。
じゃあ、そうなると……。本人の次に詳しく、一番聞きやすい由佳に聞こうとした矢先——。
「……でも」座り直した由佳は、じっと私の方を凝視した。
「本当にあいじょに行きたいなら、この話は亜依ちゃんには黙ってあげるね」
「どうして?」私は驚きしかなかった。
「ちびあいちゃんまで、あいじょに行きたいって亜依ちゃんが知ったら嫌がるんじゃない?」
「そうなの?」
「だって、それって『受験のライバル』が増えることになるじゃない」
そうか……。二人揃ってあいじょに行けるとは限らない。万が一かもしれないけど、私が亜依の進学の夢を壊すことになるのかもしれないのかな。
「でも、それは由佳も一緒じゃないの?」
「わたし、ライバルと認識しているのは自分自身だけです。トップで合格するから関係ない」
「そ、そうだね……」
成績に裏付けられた由佳の自信に、私は苦笑いするしか無かった。
「相談なら乗ってあげるね」
由佳の優しくもあり厳しい言葉が、ひとつ救いの手のように感じた。
「それでも亜依と同じ高校に行きたい」
その思いを胸に、新たな一歩を踏み出した。これからも亜依と一緒に過ごす時間を大切にしながら、二人の未来を描いていく決意をしたのだった。