「……由佳が珍しく、一緒に帰ってくれる」
金曜日の放課後、亜依と由佳の三人は並んで帰った。
由佳は帰る方向は私たちと一緒なのだが、いつも誰かを待つように放課後を過ごしている。
けど、今日は珍しく一緒に帰り、思わず呟いた。
学校の門を出ると、夕方の柔らかな日差しが私たちを包んでいた。風が心地よく、すれ違う高校生の笑い声が響いた。時折、あいじょの子も見かける。
「わたしは、高校生になったら、あの制服着たいよ」
あいじょの制服を観て、亜依が独り言のように話した。
「一緒にあいじょ行こうね」それに由佳が反応した。
「そうなったら六年間一緒だよ」亜依が笑顔で応じる。
二人の純粋な笑顔に釣られて、私も微笑みながら見つめた。きっと二人は同じ高校に行くことになるのかな。しかし、心の中では複雑な思いが渦巻いていた。亜依と一緒にあいじょに行きたい。
翌日の土曜日、亜依といつものように図書館で勉強会を開いた。
図書館の静かな学習室で、教科書やノートを広げて勉強を始めた。亜依は優しく説明をしてくれる。その優しさが私の心を癒した。
「この問題、わからないところがあるんだけど……」
困惑した顔で亜依に質問すると、亜依はすぐに解説してくれた。
「ここは、こういう風に考えるとわかりやすいよ」
亜依の説明を聞いて、少しずつ理解を深めていった。
しかし、心の中では不安が募っていた。残された時間は少ないな。でも、今も大事にしていきたいな。
休憩室で、クッキーを食べながら一休みすることにした。
「このクッキー、おいしい……!」
「でしょ。ここなんだよ」
亜依が携帯を私にかざしてきたので、亜依にすり寄るように近づいていった。
「本当だ。これ、かわいい……」
色合いが素敵で、つい見とれてしまった。
「なんか、携帯ばっかり見ていると、由佳みたいかな……」
私が思わずそう言ってしまった。
「そういえば……。由佳って、抜け駆けするところがあるよ」亜依がふと呟いた。
「どういうこと?」戸惑いながらも尋ねた。
「由佳って、会話しながら携帯見ているじゃない」
「そうだね」
大体、由佳は携帯か本を読んでいる。あまり直視して話すことが少ない。
「いつも携帯ばっかり見ているじゃない。何を見ているか知っている?」
「え? ニュースサイトでしょ。たしか、KHNかな」
「それも見ているけど、違うよ。こないだ由佳が携帯を見ているのをこっそり後ろから見たらそうじゃないよ」
亜依は、更に私に近寄って小声で話す。
「学習アプリで勉強しているのよ。わたしに気付いて、由佳は必死に隠そうとしたけど」
それは、勝手に見る亜依が悪いような気がする。
「人の話をそっちのけで、自分は必死に勉強しているんだよ。ヒドくない?」
「そ、そうだね……」私は苦笑いしながら返した。
期末テスト学年1位の由佳。やっぱり、そこまでしないと取れないものかな。
こうなると、由佳に誘われた『あの話』は亜依にはできないな……。
月曜日の放課後。今日も由佳が一緒に帰ってくれた。
今朝から降っていた雨もあがり、そろそろ梅雨も終わりかな。そうなると、季節はだんだん暑くなる。
「もうすぐ夏休みだね。どこかに遊びに行きたいな」
私が楽しそうに提案すると、由佳は即座に答えた。
「夏休みは勉強するためにある!」由佳の真剣な顔に、私は少し驚いた。
「そうだよ、藍ちゃん。中学生の夏休みは三回しかないんだよ! 受験勉強するためにあるのよ」
「その夏休みって、遊ぶためにあるんじゃないのかな……」
二人の息の合った意見に、私は圧倒された。
『あいじょに行く子は違うのかな……』
私の夏休みは、始まる前に終わりそうだった。