「端から見たら、やっぱり女の子を好きになるのはおかしいのかな」
今更、由佳の言葉が頭の中で何度も繰り返される。私は自室のベッドに寝転がり、天井を見つめていた。
亜依と一緒にいると心が安らぎ、楽しい気持ちになる。その感情が友情を超えるものであることは薄々気づいていた。けれども、由佳の言葉はその感情を否定するようで、私の心を重くさせた。
亜依と過ごす時間が大切で、その笑顔を見るだけで幸せになる。それが友情の延長なのか、それとも恋愛感情なのか、まだはっきりとは分からないな。
由佳の言葉に惑わされながらも、亜依への想いを捨てきれない。
「藍ちゃん、今日も一緒に帰ろう」
亜依の誘いに嬉しさがこみ上げてくる。
「うん、一緒に帰ろう」
亜依と一緒に学校から帰る途中、何度も亜依の横顔を見ていた。亜依の笑顔や仕草が愛おしくて、心が温かくなる。その瞬間が何よりも大切だった。
「——だから、カナダの国旗ってカエデの葉なんだよ」
「私、メープルっていったら、パンケーキかな」
「そういえば最近、新しくできたカフェがあるんだけど、評判がすごくいいんだって」
「知っている! ブルーベリーパンケーキでしょ」
「そうそう、ベリーがたっぷりで、クリームもふわふわだよ」
亜依は携帯を取り出して、パンケーキの写真を見せた。
「いいなー。美味しそう……」
私は亜依に身を寄せて、携帯を覗き込んだ。
「でも、こんなの自分で作れないよね」
「これはちょっと無理かな」
「そうだね、わたしも無理だよ……」
「こんなキレイに膨らまないから、できないかな」
「自分で作ると難しいよ」
「私、たまに作るけど、上手くいかないの」
家で何回か作ったことがあるけれど、なかなかキレイにはいかないな。
「お店のパンケーキと、家で作るの、やっぱり違うよ」
「どうやったら、あんなにキレイに作れるのかな……」
亜依とメイプルの話から、パンケーキのことを語り合った。
寂しくも亜依と別れて、ふと思った。こうして亜依と一緒に帰れるのは、あと2年半ちょっと。
それは、長いようで短い。
亜依は確実に『あいじょ』に進学する。そうなると一緒に帰ることはおろか、一緒に遊んだり、勉強することもなくなってしまうかもしれない。
「中学三年間だけじゃあ、短すぎるよ……」
せっかく仲良くなった亜依と一緒にいられる時間が限られていると思うと、不安が募る。
「それでも亜依ちゃんと一緒にいたい!」
心の中で強く誓った。亜依と一緒に過ごす時間が、私にとって何よりも大切で、それが友情であろうと恋愛感情であろうと関係なかった。亜依との時間を大切にし、一緒にいられることが私の一番の願いだった。
中学校を卒業しても、亜依と一緒にいたい。そのためには、亜依と同じ高校に進学することが必要だと感じた。
「亜依ちゃんと同じ高校に行きたい!」
でも、それは想像以上に難しいことだとは分かっていた。