「中間テスト、自信ないな……」
中間テスト当日、クラスみんなが切迫した雰囲気で包まれていた。
クラスメイトたちの緊張する空気感が、私にも伝わり余計自信が無くなってきた。
亜依もまた、好成績を出さなければならないプレッシャーに苦しんでいるようだった。
私は、亜依に話しかけるのは今はやめようと、そっとすることにした。
周りの緊張感とは対照的のように感じたのは由佳。
「わたし、全然勉強してない」
由佳は悠然とした表情で、いつものように携帯を凝視していた。
机に座り、試験の問題用紙を受け取る手が震えていた。
試験監督の先生が問題を配布し始めると、教室内は一層静寂に包まれた。
『ど、どうしよう……。思っていたより難しい……』
私は小学校のテストとは違う難しさに直面し、ちょっと泣きたくなるくらい苦戦した。
でも、亜依が一生懸命教えてくれたんだ。亜依のためにも頑張らなきゃ。
空白回答をできるだけ減らそうと、亜依の話を思い出しながら解いていった。
初日が終わり、手応えのあった亜依の様子を見て、私は安心した。
教科ごとの試験が全て終わり、私は手応えをあまり感じられなかった。
数日後、中間テストの結果が個別に返ってきた。渡された結果表に学年順位が書いてあった。
私は90/140位という平均以下の結果に、不安に思った通り良くなかった。休み時間に見返して溜息しかなかったな。
「ねえ、翔子は何位だった?」
「68位だよ。早智は?」
「勝った! 65位。ちびあいちゃんは?」
由佳のせいで、二人にまで『ちび』扱いされてしまっている。
「わ、わ、私は……な、72位……」
正直に言うのが恥ずかしく、持っていた結果表を机に伏せて見えないようにした。二人に合わせるように思わず嘘をついてしまった。
「ちびあいちゃんも同じくらいか。みんなそれくらいだよね」
「う、うん。そ、そうだね……」
二人に結果表を見られたら、私は『ちび』呼ばわりから『嘘つき』呼ばわりに変わってしまう。今度から嘘をつかなくて済むように、次回は少なくとも平均を超えたいな。
「なんか廊下が騒がしいね」
「だって、中間テストの学年別順位、廊下に貼りだしているからだよ」
「え! そうなの!」
私は思わず叫んでしまった。二人に——違う、学校中に私の順位がバレる!
「ねえ、今から見に行こうよ」
「行こう、行こう」
二人が行かないように引き留めようと思ったが、しばらく貼り出されるから結局バレる……。
こんなの公開処刑だ。そう思いながら、仕方がなく私は二人についていった。
順位を廊下に掲載されるなんて知っていたら、あんな些細な嘘をつかなかったのに。正直に言えばよかった。
順位を知った二人はきっと、『入山さんって、おバカさんな上に嘘までつくんだ』や『すぐバレる嘘ついて、なんとも思わないの』などと言われるんだ……。
更に学校中に私の順位を見られていると思うと、顔が熱くなりドキドキした。
まるで下着の色をまわりの人たちに言いふらされたみたいで、恥ずかしくなってきた。
「ちびあいちゃん、さっきから顔が赤いけど大丈夫?」
「……違うの。今日は赤じゃなくて白なの……」
「えっ? 何が?」
心配そうに声をかけてくれた早智が驚いた表情を見せた。
廊下の掲示板に行くと、人だかりができていた。
集まった人でなかなか見えず、背が低いので飛び跳ねるなど必死になって私の名前を探そうとした。
「ちびあいちゃん。必死に探しても上位20位までだよ」
早智に指摘されて、再び赤面した。でも、私の順位を他の人に知られなくてよかった……。
ホッとして周りを見ると、不機嫌そうな由佳が順位表を見つめていた。
「学年3位か……。もっと勉強すればよかった」
由佳の呟きに貼り紙を見ると、一年生の3位は由佳の名前が確かに書いてあった。
そういえば、20位以内を目標にしていた亜依は? 私は一年生の順位表を何度も見返したが亜依の名前がなかった。
好成績を誇る由佳の横で、学年20位以内に入らず落ち込む亜依の姿があった。
後で知ったが、悔しそうにしていた亜依は学年21位だった。
「こんなの公開処刑だよ……」
泣きそうな声で吐いた亜依のセリフに、私は罪悪感しかなかった。