土曜日、母と一緒に携帯を買いにお店に連れてもらった。
「どれがいいのかな……」
お店で選ぶ楽しみや、初めての携帯を手に入れた喜びが心を満たしていた。
結局、母と同じリンゴの携帯でピンク色にした。
帰宅後、興奮して自分の部屋で初めての携帯を眺めた。
「これで亜依ちゃんと連絡が取れる!」
特にしたいことがあるわけでもないのに、携帯をいじっていた。
初めてアドレスを交換したのは、母と父だった。何かあったときは連絡しなさいと、半ば強引に入れられたに近かった。
その次には、亜依とアドレス交換をしたいと思っていた。
でも、なんて言えば交換してくれるのだろう……。
「わ、私とアドレス交換してください!」
近くにいたクマのぬいぐるみを抱き上げて練習してみたが、なんか堅苦しい。
一緒に遊びたいから、その流れで聞くのはどうだろうかな。例えば買い物とか。一緒に来てくれるかな。でも、亜依の好みはなんだろう。まず私から好きなものを言うべきかな。
クマのぬいぐるみ相手に亜依に話すプランを膨らませながら、嬉しそうに笑った。
「藍。お昼できたよ」
ドア越しに母に呼ばれた。
返事をして一緒に下に降りていき、昼食を目の前に母が突然質問をしてきた。
「好きな男の子でもいるの?」
「えっ! そんなのいないよ」
驚いた私は素直に否定した。
母は笑いながら「だって、部屋で告白の練習していたから」と言ってきた。
「そんなのしてないよ!」
「えー? だって、さっき部屋で『付き合ってください』とか、『好きです』とは言っていたから」
あれは『買い物に付き合ってください』と『私は服とか見るのが好きです』って練習していた。なのに一部分だけ切り取られてしまい、私が亜依と付き合ってほしいという告白みたいになった。
「本当にいないから!」
私は赤面しながらも否定したが、少し照れくさそうに笑った。
「でも、せっかく携帯買ってあげたんだから、危ない目に遭いそうだったら使うんだよ。外に出れば危険な事っていっぱいあるから」
そんなこと起きないと思いながら、軽く返事をした。
月曜日。
あの後、しっかり考え直したから大丈夫かな。そう思いながら学校に行くと、肝心の亜依が見当たらなかった。
朝のホームルームで休みだということが分かった。
私はまだ亜依の連絡先を持っているわけではないため、心配で一日中元気が出せなかった。
また亜依が登校してきたらアドレス交換するしかなかった。
放課後、せっかく買ってもらった携帯を使おうと思った。
そこで、帰る連絡を母にしようと携帯を出したところ、後ろから来た由佳に見られてしまった。
「ちびあいちゃん。携帯買ったんだ!」
「そうなの! お願いしたら買ってもらえたの」
由佳は私と小学校が一緒だから亜依より私の方が先に出会っているのに、『ちび』扱いする。
先に発見されたのに後から見つかった方を『パンダ』と呼ぶことになってしまったレッサーパンダの気持ちが分かる気がした。
「良かったらアドレス交換しようよ」
一番最初は亜依にしたかったので、みんなに見られないようにしていた。けど、由佳にバレてしまい渋々交換することに応じた。
「そういえば。亜依ちゃんは明日は来るみたいだよ。さっき返信が来たね」
由佳たちは亜依と交換していたんだった。
「そうなんだ。私、亜依ちゃんのアドレス知らないから……」
「だったら、教えようか?」
「え! 本当に!」
「ちょっと聞いてみるね」
由佳が亜依と連絡ができるうらやましさを感じた。でも、由佳を通して亜依と連絡が取れるならと、由佳にアドレスを教えたことに後悔はなかった。
「由佳ちゃん、ありがとう……!」
数分後、亜依からの承諾をもらい嬉しかった。
帰宅後、亜依とチャットアプリでメッセージを交換した。
そこで、ゴールデンウィークの連休に遊ぶ約束をすることになった。
「今度の連休、みんなと集まるけど来る?」
私は心から喜んで、「もちろん行くよ!」と返信した。
新しい携帯がもたらす友達との絆、そして亜依とのさらなる交流に期待を膨らませながら、私は幸せな気持ちで眠りについた。