「また由佳(ゆか)、携帯見ている……!」
お昼休み、亜依を含めた数人集まって話していた。
しかし、由佳はみんなとの会話そっちのけで、いつものようにスマホを弄っていた。
「だって、面白いんだよ」
「もう……由佳って、いつも携帯ばっかり」
「話はちゃんと聞いているから大丈夫」
早智(さち)が怒るも悪気もなくマイペースな由佳がよく見るのは、人気のニュースサイト「KHN」。ニュース以外にも天気や占いがあるため、由佳はそこで様々な情報を楽しんでいるみたいだった。
「みんなの占い、見てあげるよ?」
結局は由佳のペースに乗せられ、その場にいた子たちは興味津々で由佳の周りに集まった。
由佳が今日の占いをチェックし始めると、みんなドキドキしながら聞いていた。
「ちび藍ちゃんは、『思いが通じる日』ですね」
『ちびあい?!』口には出せず、ショックで何も言えなかった。
確かに、こないだの身体測定で比べられて、亜依より背が五センチ低いと分かってしまったが……。
「そ、そうなの?」
思いがけない呼び名と、予想外の結果に驚いてしまった。
占いにあまり深くは信じていないが、何だか気持ちが明るくなった。
「せっかくだから、アドレス交換しない?」
亜依がそう言うと、みんな同意した。
しかし、みんながスマホを持っている中、唯一持っていなかったのは私だけだった。
こういうことをねだって親に頼んでも、買ってもらえることが少なくダメな気がしていた。
由佳たちがスマホで楽しそうに話している姿を見て、『私も携帯ほしいな……』と呟いた。
藍はアドレス交換をしたりと、みんなの会話には入れず、またもや疎外感を覚えてしまった。
放課後、いつも通りに亜依と一緒に帰った。
「亜依ちゃん、携帯持っていていいな……」
「藍ちゃんも頼んで買ってもらえば?」
「そうだよね。言ってみようかな……?」
亜依もそう言うし、お母さんに頼んでみようかな。
「そういえば、亜依ちゃんは親にすぐ買ってもらえたの?」
「……小学生の時に、お母さんが持たせてくれた」
「優しいお母さんだね」
しかし、亜依の表情が一瞬変わったように思えた。
亜依は珍しく言葉に詰まり、なんとなく話しづらそうだった。
本当は携帯の相談をしたかっただけだったが、会話が思うように進められなかった。
亜依には思いが伝わらないようで、罪悪感を覚えた。
その後、なかなか話すきっかけが掴めないまま、分かれ道まで来てしまった。
亜依とはにこやかに別れたが、どことなく悪い気持ちは残ったままだった。
どことなくモヤモヤしたまま家に帰ると、台所には母がいた。
「お母さん、あのね……」
「なーに?」
洗い物をしているみたいで、こちらには背を向けたままだった。
「私。そ、そのー。け、け、携帯が欲しいんだけど……」
すると、それまで動かした手を突然止めて、こちらを向いた。
『やばい! 怒られる……』
やっぱり、携帯は買ってくれないか……。
「藍も中学生だからね。持った方が良いかもね」
「えっ……?」
「お父さんと相談するから、考えてあげる」
その後、父からも承諾をもらい、意外とあっさり買ってもらえる約束をした。
数日後、自分の部屋で新しい携帯を眺めた。
「これで亜依ちゃんとメールできる!」
新しい携帯を手に入れたことで、彼女の心には少しだけ安らぎが訪れた。