「亜依ちゃんに悪いことしたかな……」
ゴールデンウィークが明けた初日、なんとなくだるい気持ちで登校した。
みんなで遊んだ後の連休中も亜依とメッセージ交換はできた。けど、亜依自身の話題は気が引けて、話をすることができなかった。
なんて話したらいいのかな……。いつも通りの方がいいのかな。
「藍ちゃん、おはよう!」
突然後ろから声をかけられて、私は思わず驚いた。
「お、おはよう……」
登校中に亜依と会うと、いつものように笑顔で挨拶してきた。しかし、私はどことなく気が引けていた。亜依の家庭事情を知ってしまい、余計話しかけづらくなっていた。私は亜依に対する距離を感じざるを得なくなった。
「あの後、みんなでカフェに行ったんだね」
「そ、そうなの。楽しかったよ」
あの後、亜依より門限が緩い私たちはチェーン店のカフェで時間まで過ごした。
事情を知ってしまった以上、『亜依ちゃんも来れたらいいのに』とは本人を目の前に言えなかった。
学校に着いても、どことなく話しかけづらかった。救いだったのは、普段通りに接する翔子がいたときは、みんなで雑談ができた。けど、やっぱりその話はしない方がいいことだけは、なんとなく理解してきた。
二時限目、教室移動で亜依と一緒に向かった。二人っきりになると、いい話題が見つからなかった。
そこへ日影生徒会長と廊下ですれ違った。入学式などで遠くから見かけることはあったが、近距離で見たのは初めてかもしれない。思わず清楚で美人の日影先輩に見とれてしまった。
そして、すれ違うと先輩から良い香りがした。お花のような甘い香りがして、子供と大人が入り交じった先輩ぽい優しい香りだった。
「いい香りがする……」
「そうだよねー。どんなシャンプー使っているんだろうね」
私が思わず言ってしまったことを亜依に聞き取られてしまい、恥ずかしくなった。
「そ、そうだよね……。髪もきれいだし、どうしたらあんあ素敵な感じになるのかな」
「わたしも、あんな髪になりたいよ」
「亜依ちゃんは、十分きれいだと思うけど」
「伸ばしても毛先が荒れるから切っている。藍ちゃんの方がきれいだよ」
ショートボブの亜依は、ストレートロングの私を見つめている。
「これでも、けっこう苦労しているの」
だからこそ、日影先輩みたいな髪に憧れる。
「でも藍ちゃんは、服もかわいいよね」
お気に入りで固めた服、そう言ってもらえて嬉しかった。そして、いつも通りの亜依だったことに嬉しかった。
「また一緒に遊びに行こうよ」
私は、亜依のその言葉に笑顔で応えた。
「亜依ちゃんとだったら、どこでもいいよ」
亜依とどこに行けるのか、今から楽しみで仕方がなかった。
「じゃあ、定期テストが終わったらね!」
……定期テスト? そんなのあったような気がする……。