『私は亜依にいろいろ嘘をついているな……』
私は心の中でそう呟きながら、図書館の静かな学習室で勉強していた。
亜依が隣で教科書を広げている。その姿を見つめながら、罪悪感に苛まれていた。外は澄み切った晴天。私と空は真逆かな。
なぜなら、由佳に誘われた話を未だに亜依に隠しているから。
「亜依ちゃん、夏休みの宿題進んでる?」
「わたしは、三割くらいは終わったよ」
「亜依ちゃん、早い……。私は、まだいっぱい残っているかな」
「早めに片付けて、受験対策したいと思っているよ」
やっぱり、あいじょに目指す子は、違うなと思った。
夏休みに入ってから、更に暑くなり空は夏の装いとなっていた。
「図書館は涼しいのに、外は暑いな」
「今日も35℃越えだって」
「図書館に戻りたいな……」
「今日は暑いし、コンビニでアイスを買って帰ろうよ」帰り際、亜依が提案した。
「それ、いいな。行こう!」私はその提案に嬉しくなった。
図書館を出て、近くのコンビニに向かう二人。炎天下の中、冷たいアイスを楽しみにしていた。
「藍ちゃん、何にする?」
亜依が嬉しそうにアイスの種類を選んでいると、藍の心は少し軽くなった。
「わたしは、ソーダ味にするよ」
「私もソーダ味にしようかな」
何がいいか決めかねていたので、亜依と一緒だったら何でも良かった。亜依と同じアイスが食べられて嬉しかった。
入口の自動ドアが開いたのでふと見ると、Tシャツに短パン、短髪の子供がひとり入ってきた。私は、その姿を見るなり血相を変えて咄嗟にトイレに駆け込んだ。
コンビニの狭い店舗、隠れるにはひとつだけある女子トイレしかない。
「な、な、な、なんでこんなところに、あいつがいるの……!」
こっちには来ないと思っていたのに……。
私ひとりだったら問題ないけど、今日は亜依が一緒にいる。絶対に会わせたくない。
そこへノックをする音に私は驚いた。急に隠れたのがバレたかも……。
「藍ちゃん、大丈夫? お腹痛くしたの?」
私は扉のロックを外し、そっと開ける。やっぱり亜依だった。
「亜依ちゃんも、こっちに来て……!」
「ど、どうしたの急に?」
亜依がトイレの外から心配そうに声をかけてきたが、中に入ってもらった。他の人が入れないように、念のため鍵もかけた。
「それよりも……誰もいない?」
「え……? 店員さんしかいないよ」
亜依の言葉を聞いて、トイレからそっと出てみた。亜依が心配そうに見つめているのを感じ、少しだけ安心した。
「ごめんね、急に隠れちゃって……」
私はは謝りながら、心の中で再び自分を責めた。亜依にまた一つ嘘をついていることに気づいたからだ。
「お腹の調子が悪いなら、アイス止めてもいいよ」
「だ、大丈夫。そういうのじゃないの」
亜依に不思議そうに見られたが、コンビニでアイスを買い、外で一緒に食べることにした。
冷たいアイスが暑さを和らげ、二人はしばしの間、楽しい時間を過ごした。
『私は、結局亜依にいろいろ嘘をついているな』と、炎天下の空を見上げながら心の中で呟く。