「次の生徒会長は誰になるのかな……」
学校の廊下には、新たな活気が満ちていた。
夏が終わり、二学期が本格的に始まって数週間。廊下の掲示板には十月に行われる生徒会長改選のことが書かれたものが貼られていた。
私はそれに目を留め、無意識に足を止める。鮮やかなカラーでデザインされたポスターには、『新しいリーダーを目指して!』と、力強く書かれている。
「もうそんな時期なんだ……」
心の中でそう呟きながら、改めて現・生徒会長の姿を思い浮かべた。
始業式の時の彼女の堂々とした姿と、そのスピーチが鮮明に蘇る。彼女のような人になりたいと、感じたことを思い出した。
強いリーダーシップ、圧倒的な存在感。彼女のような人物に憧れを抱く生徒は多いだろうし、私もその一人だった。
でも、ああいう風には成れないのかな……と、一方では悟った。
休み時間に私がポスターに目を奪われていると、そこへ由佳が通りかかった。
「ねえ、ねえ、由佳! 生徒会長改選のポスターだよ?」
「うん。知っているのね」と、由佳は冷静なまでにあっさりと答えた。
「次は、誰がなるのかな……?」
「変な人じゃなきゃ、誰でもいいけどね」
「ねえ、由佳は立候補しないの?」
「わたし、絶対に生徒会長には立候補しない!」
私が軽い気持ちで話したが、それまで素っ気ない返しが急に大声で返してきた。
「で、でも、由佳が生徒会長になったら——」
すると、由佳に勢いよく壁に押しつけられた。
「出ないって言ったら、出ないの!」
「……ご、ご、ごめんね」
由佳のあまりにも迫力のある顔に脅され、泣きそうになった。
「分かればいいのね」
こ、怖かった……。さっき、トイレに行っていなかったら大変なことになっていた。
「そもそも、立候補ができるのは二年生だけだよね」
『じゃあ、来年出たら』って言ったら、私は今度こそエラいことになっているかもしれない。
「そ、そうだったかも……」
由佳が手を放してくれたとはいえ、まだドキドキしていた。
「ご、ごめんね……。つい……」
「別にいいのね。先生にも言われた……。『学級委員、なんでやらなかったのか』って」
「でも、あれって亜依ちゃんで、ほぼ決まっていたような感じだったかな」
実際、亜依も前向きに考えていて、やりたがっていたみたいだったな。でも、亜依の本音は翔子の言うとおりかもしれない。
「亜依がいて助かったけどね。でも、先生に言ったのね、『比べられたくない』って」
「それなのに、ごめんね……」
「みんな、そういうことを言うから慣れているのね」
それを聞いて、由佳の気持ちが少し理解できたように思えた。由佳も由佳で、いろいろ悩んでいるのかな。
「そろそろ、休み時間が終わるのね」
「そ、そうだね。ご、ごめんね……本当に」
先を歩く由佳に小走りで追いつくと、両手で由佳の左手を握った。
柔やかに握り返してくれて、私はホッとした。
その瞬間、心の底から温かさを感じた。由佳が自分にとってどれだけ大切な存在であるかを、再確認できた気がした。