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あいとあい

2人の女子中学生の話「あいとあい」を書いています。

第26話:あいとうそ


「なかなか、家に遊びに行く事ってないよね」
 昼休みの教室は、いつものように賑わっていた。外の空気がひんやりと肌を刺し、少し早めに訪れた秋の気配が感じられる。教室の窓から差し込む柔らかい日差しに、私たちは穏やかな時間を過ごしていた。
 クラスの友人たちと集まって、何気ない雑談が続いていた。そんな中で、ふと亜依がぽつりとそんな話を切り出した。
「確かに、あんまり遊びに行ったことがないかな……」
 亜依の家は家庭事情を知ってしまった以上、みんなして亜依の家には行きたがらない。そのせいか、逆に自宅に誘いづらくなっているのがひとつ原因でもあるかな。
 そのため、みんなで集まっても外で遊ぶことが多かった。
「うちは、来てもいいよのね」
 相変わらず携帯を見ながら話す由佳が、意外な答えに驚いた。
「え! 良いの?」幼い子供のような目の輝きで、亜依が答えた。
「だってね……!」それに応じるように翔子も応じた。
「由佳の家って……つまり、美佳先輩のおうち!」
 すると急に由佳が立ち上がり、机を勢いよく叩いた。
「うちへ来るのは絶対にダメ!」
「さっき、良いって言ったじゃない」と翔子。
「ダメっ言ったら、ダメなの!」
 由佳は首を大きく振り、これまでの落ち着いたトーンから一転して、いつになく早口だった。
「別にね……。由佳には何もしないよ」
「ちょっと、お姉さんのタンスを開けるかもしれないけど……」
「そういうことをするから、ダメって言っているの!」
「じゃあ、美佳先輩のお部屋鑑賞とか……」
「どんな香りがするのか……」
「ダメなものは、ダメなの!」
 冷静な由佳に珍しく、熱くなっていた。
「冗談で言ったのに、そんなに怒らなくても……」
「そうだよねー」
 それでも由佳の怒りは収まるようになかった。
「でも、由佳はいいな。毎日タンスの中を漁れて」
「姉妹でもするわけ、ないの!」
「部屋に忍び込んだり……」
「姉妹なんだから、普通に入るの!」
「由佳ばっかり、ずるいよ……」
「姉妹だからね、しょうがないのね」
「姉妹を良いことに、わたしたちが知らないような事をしているんだ……!」
「服を脱がしあったり……」
「その後、二人で……」
「仲良し姉妹だからって、するわけないのね!」
 盛り上がっている亜依と翔子に、強く否定する由佳。
「だから、由佳って家に入れてくれないんだ……」
「日影家に来るな! 敷地内に入るな!」

「二人は、小学校が違ったから……」
 次の休み時間、廊下で早智が話しかけてきた。
 由佳と小学校が一緒だった私と早智は、三人のやりとりに引いていて参加せずに傍観していた。
 生徒会長である日影美佳と同級生の日影由佳。名前も一字違いで、顔もどことなく似ているので、姉妹だということは全校生徒の大多数が知っていた。
 美佳の自宅に行けるチャンスなんて、美佳の同級生すらなかなか難しい。妹経由でもいいから繋がりを持てればと考える三年生も少なからずいて、後輩に厳しい三年生でも由佳には優しかったりする。
 私は由佳がいたおかげで三年生からすり抜けられたのも事実としてあった。
 二人が熱くなるのも無理はない。
『でも……』
 私も由佳の家に行きたかったし、由佳も良いって言ってくれた。それなのに、これで行きづらくなったな……。

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