「私は、どうしたらいいのかな……」
放課後の教室は、いつもと違って少しだけ静かに感じた。
窓の外には柔らかい秋の陽射しが差し込み、夕暮れの準備をしているようだった。
クラスメイトたちが次々と帰っていく中、私は一人席に座り、心の中で渦巻く感情に向き合っていた。
亜依のことが頭から離れない。美佳先輩のことを想う亜依の顔が何度も浮かび上がり、そのたびに胸が締めつけられるようだった。
自分の気持ちを認めるのは、これ以上ないくらい苦しい。でも、それが現実だと理解した以上、どうにかしなければいけないかな。
——もし、解決する可能性があるとすれば、選択肢はただひとつ。
「……由佳。相談があるんだけど」
やっぱり、由佳に話すしかないと感じた。
由佳なら、きっと私の悩みを理解してくれるかもしれない。両者をよく知る由佳だからこそ、私が抱えているこのモヤモヤをどうにかできるのかもしれない。
「いいけどね、何?」
相変わらず、読書に熱心でこちらは見てくれない。目線が別のものに行くとしたら、水筒の飲み物を飲む程度。
「その……亜依ちゃん、美佳先輩のことが好きなの」
「それは、知っていたけどね」由佳は、水筒の飲み物をまた一口飲んだ。
「そ……そうなの?」意外な由佳の反応に、逆に私の方が驚いた。
「美佳姉が言っていたのね。学級委員との定例会議の時、やたら視線を向ける一年生女子がいるって」
「あ、亜依ちゃん……」
「それは、たいした問題じゃないのね」
そう言うと、由佳は残りを飲み干した。
「私……亜依ちゃんのことが好きなの……」
すると、由佳は飲み物を勢いよく吹いた。
「……そ、それを、ここで言う?」
「ご、ごめんね……。つい……」
「それもなんとなく、そうだと思ったけどね」由佳は、ハンカチで口元を拭きながら答えた。
「そうなの?」
「ちびあいちゃんは、亜依と話しているときが一番楽しそうだったから」
「だから、亜依ちゃんが美佳先輩のことが好きだから……」
「そんなの別に放っておけばいいのね。だって——」
「それじゃダメなの!」
勢いよく言うと、由佳は少し驚いたように思えた。
「人のことを、レズだとか弄ってきて、結局はそうなんだよね」
「私……あの時、なにも言ってないの?」
「別に、いいけどね」
「私、由佳のこと、シスコンとか言わないから……」
「それは、口にしなかっただけで、一緒なのね」
「うっ……」つい、そう言ってしまった上に、返しようがない。
由佳に軽くため息をつかれる。そして、思わぬ事を話した。
「しょうがないのね……。要は、亜依が美佳姉のことを諦めれば良いんでしょ」
「そ、そうなの!」
「だったらね——」
由佳は、教室に誰もいないのに警戒して耳元で話してくれた。
外では風で木々がこすれる音の方が、大きかったくらいだったな。
「——そうすれば、いいのね」
「それだけで、いいのかな……」
「大丈夫なのね」
「ありがとう。由佳は頼りになるから大好き!」
思わず由佳に抱きついた。
由佳の言葉を胸に、私はまた少しだけ前を向くことができた。