「私は、由佳にだまされているのかな……」
亜依が放った言葉に、私は動揺を隠せなかった。
クマのぬいぐるみを抱きかかえながら、自室のベッドの上で思い悩んでいた。
確かに、由佳って自分のことしか考えてないように思える。けど、悩み苦しんでいる私のことを優しく手助けしてくれる。
私がそう思っているだけなのかな……。
文化祭が終わってから数日。通学の朝は、すっかり寒くなっていた。
未だに、なんだかずっと心の奥でモヤモヤしていて心まで冷え込みそうだった。
亜依と一緒に楽しい時間を過ごせた。けど、その笑顔が心に染み渡ると同時に、今まで感じたことのない不安が広がっていた。
それは、亜依の言葉のせいだったのかもしれない……。
「藍ちゃん、おはよう!」
「お、おはよう……!」
あまりにも考え込みすぎて、後ろから亜依が近づいていたことに気付かず驚いてしまった。
「今日も寒いよ……」
「そ、そうだね。マフラーないと寒いかな」
「藍ちゃんのそのマフラー、似合っていてかわいいよ!」
「あ、ありがとう……! すごく気に入っているの」
亜依にピンクのふわふわした大きめのマフラーを褒めてくれて、すごく嬉しかったな。
外はすごく寒いけど、亜依の言葉に心が温かくなるのを感じた。
亜依にピッタリくっつくように、教室まで一緒に歩いた。
放課後。由佳と三人で話していたが、時間が経つのは早かった。
「わたし、先に帰るね」
由佳は、そそくさとチェック柄のマフラーを巻いて教室を後にした。
「わたしたちも帰ろうよ」
「そうだね」
亜依に促され、私たちも帰る準備を始めた。
何気ない話しだったけど、けっこう楽しかったな。
「外、寒そうだよ……」
「ちゃんと暖かくしよう」
私も亜依に褒めてもらったマフラーを身につけた。そういえば、由佳のマフラーもかわいかったな。
帰り道、亜依が話しかけた。
「由佳のマフラーって、あれって自慢だよ」
「え……? そ、そうなの……?」
「由佳のマフラー、美佳先輩のマフラーと色違いだよ」
二人は姉妹だから、別に色違いでもおかしくないけど……。
その日、帰り道はどこか息苦しく感じた。
亜依の言葉が次々と思い出され、頭の中で反響する。
「由佳は、ただ自分を見せびらかしていただけでしょ」
そんな亜依の疑念が、私の中にじわじわと広がっていった。
「だって、みんなで遊びに集まった時の服だって、美佳先輩の服でしょ?」
「確か、お姉さんの服だって言っていたかな……」
由佳が言う『お姉ちゃん』というのは、日影姉妹長女・千佳の場合もあるけど。
「結局、自慢したいだけだよね」
私は心の中で困惑した。
このまま由佳を信じていいのだろうか、それとも亜依の話を鵜呑みにしてしまうべきなのか。
何もかもが混乱してしまって、どうすればいいのかわからなかった。
「私は、亜依ちゃんを信じるべきなのかな」