『亜依ちゃんに近づけて嬉しい!』
文化祭が終わり、ふわふわとした夢のような気持ちが自宅に帰っても残っていた。
亜依と一緒に過ごせたこと、あの楽しげな笑顔。そして——。
ふとした瞬間に触れた亜依の柔らかくて潤った温もり。今でもはっきりと覚えているな。
亜依に近づけた、そんな確かな実感が、心の奥底で私をじんわりと温めていた。
少し遠く感じていた亜依が、ちょっとずつ近くにいるような気がする。
『あの瞬間、嬉しかったな……』
それが嬉しくて、でもその一方で、少しだけ不安もあるかな。
こうして近づいた今、もし亜依を失ってしまったら、私はどうなるのだろうかな……。
それと同時に、由佳のことを思い出していた。
由佳がいなければ、亜依と再び近づける機会もなかったかも。
亜依と過ごすことが多いけど、少しは由佳に感謝しなきゃいけないのかもしれないかな。
「亜依ちゃん、おはよう」
「う、うん。おはよう……」
月曜日の朝、亜依と通学途中で顔を合わせたが、なんとなく気まずかった。
それは、亜依も同じだった。やっぱり、急にあんなことをしたからかな……。
どうしても、自然に話が進まない。
文化祭のときのあの笑顔が嘘みたいに、亜依と話すと何故か気まずく思ってしまう。
今更になって、あの時の恥ずかしさを隠そうとする自分がいた。
こんなとき、いつもみたいにお互いのことを話せばいいのにな……。
どうしてか……心の中に壁ができたようで、余計に罪悪感を思ってしまった。
「なんか……。ご、ごめんね……」
私は、思い切って切り出した。
「ううん。別に、わたしは気にしていないよ」
ちょっとためらうような様子で、どこか遠慮がちに視線を落としながら言葉を選んでいるようだった。
そうだよね……、そうなるよね。
文化祭のときの亜依を思い浮かべると、少しだけ複雑な感情が混ざっているようだった。
結局、話題を見つけられないまま、学校に着いてしまった。
学校では、由佳たちがいるので、話題には困らなかった。
けど、二人っきりになると、思うように話せなかった。
いつも通り、一緒に帰るが朝と変わらなかった。
しかし、ふとした話題から亜依がつぶやく。
「でも、由佳って自分の事しか考えていないよ」
やっと出た話題に喜んだのも束の間、唐突な言葉に驚いて亜依の顔を見る。
「え? どうしてなの?」
「前に、勉強のこと聞こうと思って。由佳にどんな勉強アプリ使ってるのか聞いたのよ。そしたら——」
『由佳、それって勉強アプリ? 何使っているの?』
『あ、アプリじゃないのね。スクショなのね』
『でも、今スクロールしたよ』
『縦に長いスクショなのね』
『でも、だって……』
『スクショは、スクショなのね!』
「——って言うんだよ。変だよ」
「う、うん。そうかもね……」
亜依の些細な話を聞きながら、私は小さく頷いた。
「けっこうな頻度で、そのアプリの画面がちらっと見えてたんだよ。でも、なんで隠すんだろう……」
「な、何でなんだろうな。私には分からないな……」
「なんで、そんな嘘つくんだろう」
確かに、由佳がそんなことで嘘をつく必要があるのかな……。私にはよくわからなかった。
でも、なぜか不安が広がっていく。
美佳のことで由佳に相談したけど、由佳にしてみれば美佳は大事な姉。
私も由佳に変な嘘、つかれているのかな……。