「由佳って、そうだったんだ……」
勉強が手が着かず、私は気持ちを落ち着けようとベッドの上でぼんやりしていた。結局そのまま由佳のことを思い浮かべていた。
先日の出来事が盛り上がってそうなったのは分かっているが、どうしても頭から離れなかった。
名前も顔だってどことなく似ている由佳と美佳が姉妹であることは、小学校の頃から知っていた。
けれど、彼女たちがそこまでの深い仲なのかまでは考えたことがなかったな。
いつもクールで自分のペースを崩さない由佳が、あんなに激しく感情を露わにするなんて……。
思い返せば、由佳と美佳が中学校で一緒にいるところをほとんど見たことがなかったな。私が見たのは、夏季講習の塾くらい。
「あっ……!」
そういえば、二人でトイレの個室に入っていたが、まさかそんなことをしていたのかな。
そんなことを考えていたら、顔が熱くなった。
かえって気持ちが落ち着かない。やっぱり、勉強の続きをしよう……。
教室で見かける由佳は、普段と変わらない表情だった。そもそも、あれは二人の悪ふざけだし。
そう思いながらも、私はなんだかモヤモヤした気持ちが消えなかった。
放課後の教室、由佳と二人っきりになったので、なんとなく由佳の近くに座った。
「なんの本を読んでいるの?」
「主人公の剣士が、親友との約束を果たすために選考会を勝ち抜くという小説。お姉ちゃんたちが、最後泣けると貸してもらったのね」
つまり、千佳と美佳のお薦め本ってことかな。
「その……。由佳って、お姉さんと、その……そういうことしているの?」
「二度と喋れないように、喉を切り刻もうか?」
それは、あまりにも威圧感のある声だった。
「ごっ……ごめんね!」
「……冗談なのね」私が泣きそうなくらい驚くから、由佳は嬉しそうに笑っていた。
「やめてよ……。そういう冗談」
「それは、こっちが言いたいのね」
やっぱり由佳、二人がからかったこと怒っている……。
「姉妹だからね。多少の付き合いはあるのね」
由佳はそう言って微笑んだ。その笑顔がいつもの由佳らしくて、私は少し安心した。でも、それでもどこか引っかかるものがあった。
「でも、あの時すごく嫌そうだったじゃない?」
私がそう尋ねると、由佳は少しだけ顔をしかめた。
「お姉ちゃんの話は、したくないのね」
由佳の言葉は冷静だったが、その裏にある感情を私は感じ取った。
「でも、由佳たち姉妹が仲が良いのって、羨ましいって思うかな」
私がそう言うと、由佳は少しだけ笑った。
「レズ姉妹って言いたいなら、言わせておけばいいのね。それはそれで面白いし」
その言葉を聞いて、私は少し安心したけれど、それでもまだ何か引っかかるものがあった。
「でも、その方が面白いのかな」
由佳の言葉に、私は一瞬驚いたが、その後すぐに微笑んだ。由佳らしいユーモアが感じられて、少しだけ心が軽くなったかな。
私たちはそんな会話をしながら、放課後の教室を後にした。
由佳の言葉に少し安心しながらも、まだ心の奥に小さな疑問が残っていた。
それでも、由佳と一緒にいられることが私にとっては何よりも大切なことだった。
親友の由佳がそう言うんだから、信じてあげるのが筋かな。それが私の中で揺るぎない気持ちだった。